群衆は役人に追われつつついて行ったり、出羽の邸をのぞいたりして、だんだん数が増してきた。甘酒の荷と、短銃と、脇差とをもって、役人は、奉行所の方へ走った。
「志士というべしじゃ」
と、老人の侍が呟いた。
「大作は、もっと、痩せて、身丈《みたけ》が高いと聞いておったが――」
と、一人が呟いた。その群衆の、後方の方で
「大作――大作が――本当かの」
と息を喘《はず》ませて、右源太が、人に聞いていた。そして、群衆の中を、走って行った。新らしい橋へ来た時、もう、大作の姿も、役人の姿も無かった。
(大作の畜生っ、何んて、大胆な――こんな所へ現れて――畜生っ、俺は、じっとしておれなくなったぞ、百石どころか、元も子も、棒に振るか、振らんか――畜生)
右源太は、脣を噛みながら、濠に沿うて歩き出した。
(ここは、濠だが――いつか、南部の方へ、ぼんやりと、歩いて行った時は、こんな気持だった。あれから二ヶ月しか経たぬのに、又――俺は、何うすりゃいいんだ。俺の考えておいた弁解が通るか通らぬか――通らなかったら――)
右源太は、蒼い顔をして、俯きながら、まだ、だんだん増してくる群衆の中を、当てもなく歩い
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