横領の件。この三つの大罪を犯したる津軽を依怙《えこ》贔屓によって、処断せざること、天下政道の乱れ、これに優ること無し。いささか、南部に縁ある者として、また、天下を憂える者として、ここに、白昼、お膝下、衆人環視の内において、津軽近江を討取ること万人が、その証拠人であろう。これによって、津軽を処分せずんば、信を天下に失うものと知るがよい」
関良輔は、赤くなって、絶叫した。群衆の中から、幾人もが頷いた。
「無益の殺生は致さん、思うこと申したる上は尋常にお縄を頂戴致そう」
良輔は、こういって、脇差を鞘へ納めて、荷の上へ置いた。
「神妙に致せ」
一人が、棒を突出して、じりじりと寄った。一人が、素早く、後方から、組みついた。と、同時に、役人と津軽の家来とが、飛びついた。髻《もとどり》をつかんだ。脚を蹴った、役人が
「無法なっ」
と、叫んで、津軽の者を、突きのけた。
「馬鹿野郎、津軽の馬鹿っ」
と、町人が、叫んだ。
「卑怯者っ、武士かっ、それでも武士かっ」
と、一人の侍が、走り寄った。良輔は、血を流し、髪を乱して微笑していた。役人は、津軽の人々の手から、良輔を守って、橋を渡りかけた。
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