たなら――その時は、その時だ)
「妙でないか」
一人が、右源太の顔を見た。
「他人の空似ということがあるからの」
「それはそうだ」
「然し、その男は、確に、大作だと申しておったが――」
「証拠でもあるか?」
「ちらと見ただけだが――」
「はははは」
右源太は、おっかぶせるように笑った。そして
「そんな話より、岡場所のことでも、話そうでは無いか、何んなら、今夜一つ奢ろうかの」
「結構、一つ、あやかりに――」
「又もや、御意の変らぬ内、拙者一足先へ参っておるとしようか」
と、一人が片膝を立てた。
二十一
だあーん――それは、その近くに住む人が、生れて以来、聞いたことの無い音であった。その近くで、その音を立てたなら、死罪に処さるべき、鉄砲の音であった。
(鉄砲だ)
と人々は、ぎょっとすると共に、窓を開けたり、跣足のまま走って出たり――往来の人々は、音のする方を眺めて――新らしい橋の橋外の柳の木の辺に、行列の人数の乱れているのを見ると共に――小僧は徳利を小脇にかかえて、溝沿いに、恐る恐る走ると、侍は刀を押えて、町人は顔色を変えて、走り出した。
人の騒ぐ姿、罵る者、橋外へ
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