来かかった津軽の行列は槍を傾け、挟箱持は濠端《ほりばた》へ逃げ、駕籠《かご》はよろめきながら、人数の乱れる脚の真中に――そして、柳の木の下には白い硝煙が、薄く立ち昇っている。
「津軽だ」
 と、挟箱の金紋を見た侍が、叫んだ。
「津軽さんだ、津軽さんだ」
 群衆は口々に、叫んだ。
「相馬大作じゃないか」
 と、いった時、橋の下に、動揺している侍、白刃、その中に囲まれている人があるらしく
「津軽近江を討取ったのは、相馬大作じゃ。檜山横領の不義をたださんがため、相馬大作津軽公を討奪《うちと》ったり」
 群衆は、わーっと喚声を挙げた。津軽の駕籠は、すぐ、角の、酒井出羽の邸へ、押されるように入ってしまった。挟箱、草履《ぞうり》、御槍の人々が、そのあとを、追って行った。駕籠脇の侍が二十人余り、橋の下の一人を取囲んで、白刃の垣を作っていた。
「やれやれ」
 と、群衆が叫んだ。いろいろの人々が、四方から集ってきた。
「津軽が、討たれましたかい」
「さあ」
「何んしろ、大砲を打ち込んだからねえ」
「じゃ、駕籠は、木《こ》ッ葉《ぱ》微塵でしょうな」
「どこへ飛んじまったか、形も無《ね》えだろう」
「成る程
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