、槍先の功名に等しいからのう」
「然し、町人共は、よく申さぬな」
と、一人が、口を出した。
「平山行蔵を始めとして、あの門下一党は、世の中を、罵倒して、上役人の無為無能、下人民の奢侈、怠惰を口汚く申しておるが、江戸っ子はおもしろいものだ、そんなことは、蛙の面に水、大作を、役者に見立ててこの狂言大当りなどと、二枚画を出して、叱られた双紙屋さえあると申すのう」
「そうらしい」
と、右源太は頷いた。そして
「武士の作法で討つなら仕方があるまい」
といった。
「ところが――右源太」
と一人が、声を低くして
「大作が、もう一人いると申すでは無いか」
「ええ?」
「見かけたという奴が、確《たしか》に、相馬大作で、然も、平山子龍の邸から出てくるのを見たというが、何うもおかしいの。討たれた奴が白昼出るのは?」
右源太は、黙っていた。そして
(本当だ)
と、思った。
(戻ってきているのかもしれぬ。然し、大手を振っては歩きはすまい。二度と、人に顔を見られるようなことはすまい。そんなことをしたなら、身の破滅だからな――俺は、何処までも、そいつは、他人の空似だと頑張っておればいい。もし、本物と判っ
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