、明日から一つ、贔屓《ひいき》にして――墓は、何処だろうな。一つ万燈を立てて、町内で、お参りしようじゃねえか。こんなお墓の石をもっていると、女の子に振られねえぜ。政公なんざ、石塔ぐるみ、背負ってるといいや」
「へん、背負っているのは、女の子だ」
「何を、借金と灸《きゅう》のあととだろう」
「一体、何んて野郎が、大作を討ったのだい」
「さあな、聞いてたが忘れたが――」
「そいつの邸へ、犬の糞を、投込んでやろうじゃねえか。ねえ、お侍さん、御存知じゃありませんか――おや、いねえぜ、二本棒あ」
「何んじゃ」
「うわあ、お出なさいまし、今晩は?」
右源太は、頭から手拭をかぶって
「熱い熱い」
と、いいながら、出て行ってしまった。
二十
「羨ましいな、右源太。当節、百石の加増など、一生かかっても、有りつけんぞ」
玄関際の、詰所――小さい庭から、差込む明りだけで、薄暗くて、冷たい、部屋の中で朋輩の一人がいった。
「そうでも無い」
右源太は、扇子を、膝へ立てて、羽目板へ凭《もた》れて、微笑していた。
「まず、重役に妾の世話をするか――己の娘を、差上げるか、そんな例は多いが、これこそ
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