の忠臣、相馬大作を討取るなんて、高師直《こうのもろなお》みたいな野郎じゃ御座んせんか」
「そうだのう。たった一人で、津軽二十七万石を向うへ廻しての大働きだ。俺あ、当節、贔屓《ひいき》にしているのは、一に大作、二に梅幸」
「三に横丁の子守っ子さ」
「誰だ、誰だ、こっちい出て来い。面あ出せ、面を」
「御覧に入れるような面じゃねえんで――」
「政公か、こん畜生――何んしろ、やることが、気に入ったね、大砲を山へもち込んで、だだあん」
「こら、耳のはたで、びっくりすらあな。ほら、女湯で、子供が泣き出したわな」
「ばばばあーん、これぞ、真田の張抜筒」
右源太は、光の届かぬ、湯の中の隅へ入って
(南部だけでなく、江戸にも、人気があるらしいが――もし、江戸へでも、現れたなら)
と、心臓を固くして、額の汗を拭いていた。人々は
「大作のお師匠さんの、平山行蔵ってのは妙な仙人だが――」
「大作って先生も、近頃の世間の奴らは、遊びにすぎて、といい出すと、うるさいって、村山の若旦那も仰しゃってたけれどもが、俺ら理窟抜きに好きだわな。芝居ですると、団十郎だ」
「芝居でも、船の底へもぐるなんざ出来やしめえ。俺ら
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