「左様か、何れにしても、討取ればよい。追って、褒美の沙汰があろうが、疲れておろう、戻ってゆっくり休憩するがよい」
 右源太は
(ここさえ無事に通ればよい。全く、芝居でもする通り、首実検は、危ない仕事だ――いいや、危ないように見えていて、昔から、やさしいことらしい。死顔と、生顔とは相好の変るもの――)
 と、肚の中で、仮色《こわいろ》の真似をしてみた。

    十九

 湯の中は、薄暗くて――乏しい光と、濃い湯気とで、すぐ側の人の顔さえ、判らなかった。
[#ここから3字下げ]
白いお馬は、主かいな
今宵帰して、いつの日か
濡れにくるかや、しっぽりと
抱いて、あかした移り香の
さめて、果敢《はか》なや、肌寒の
朝の廓の霜景色
霜にまごうか白い馬
[#ここで字下げ終わり]
「とくらあ――あちちちち」
 一人の若い衆が、湯の中から、飛上った。
「気をつけろ」
「御免なせい。こりゃお侍さんだ。申訳御座んせん。余り、熱いので、つい――」
「いいや、そう謝らんでもよい」
「お侍さん、何う思いなさいます。あの相馬大作って人を討取ったって奴を?」
 右源太は、はっとして
「うむ、何うしたと?」
「南部
前へ 次へ
全71ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング