中共に、袖の下をつかましているな」
「としか考えられませぬ。参覲交代の時に、届けもなく、道順を変更して、大砲の先を逃れましただけでも、咎めのあるべき筈のところ――」
「よし、津軽に対して、そういう偏頗《へんぱ》の処置を取るなら、わしは江戸へもどって、相馬大作の名乗を上げてやろう」
「先生、それは――」
「いいや」
大作ははげしく、首を振った。蒼白い顔色であるが、頬骨は高く、額の広い、面擦れのできた大作は、こういうと、何人《なんぴと》も動かしがたい決心の様が、眼にも、額にも、脣《くちびる》にも、現れたようであった。
「わしを召捕るなら召捕るがいい。津軽に袖の下を掴まされたのは、老中の一人か二人、または三四人のかかりの者位であろうが、奉行所まで、真逆、動かされてはいまい。わしを召捕って、訊問するとなれば、南北両奉行寺社奉行立会いの上であろうが、その面前でわしのしたことを、包みなく披露してやろう。さすれば、罪は津軽のみでなく、老中へまで及んで、現時の如き、腐り果てた支配向きは、いささかなりとも直ることもあろう」
「然し――」
「奉行が老中に、圧迫されるというのであろう」
「はい」
「上下共
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