片手と口とで、素早く、袖を絞り上げた。そして小者の歩き振りを見定めて、編笠を脱いだ。そして、笠で、襷をかくしながら、草の上を音も無く、迫って行った。
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南部の山は、黄金《こがね》山
南部の河は、黄金河
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と、小者は、口吟みつつ、歩いていた。
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鮭の鱗は、金光り
家老の頭、銅光り
女房の肌《はだえ》は、銀光り
そのまた
やっこらせ
女房の肌を抱く時にゃあ
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(肩?――頸?)
つつっと、小刻みに寄った右源太、足を構えて、踏止まると
「ええいっ」
大きく、踏出す右脚と共に、十分に延した刀、十分の気合。
「ああっ」
と、叫んで、挟箱を担いだまま、二間余り走ると、両脚を揃えて、木のように、倒れてしまった。右源太は刀を前へかくして、四方を眺めた。
(上首尾に行った)
心臓の烈しく打つのを押えながら、心の中で
(人の来ぬよう)
と、祈りながら、注意深く、小者の倒れている所へ近づいた。
十六
相馬大作は、いつもの通り、人を睨みつけるような、関良輔の眼を、じっと見つめながら
「津軽は、老
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