出て行った。
(そうだ)
右源太は、空腹を忘れてしまった。
「旦那様」
婆の差出した盆の上の飯を手に取ったが、すぐ、側へおいて
「勘定」
と叫んだ。
「御飯を、旦那様」
「いらん、早く勘定を」
「何が、お気に障《さわ》りましたで御座いましょうか――」
爺が、そういいながら、いくつも穴の並んだ、土竈の角を廻って出てきた。
「いいや、いいや、一寸、急ぎの用を思い出したゆえ」
「それなら――ああ、心配致しました。この婆め、頓間《とんま》で、いつも――」
「おやおやおや、自分のもうろくを棚へ上げて、人を頓間などと――」
「勘定を早くと申すに」
「はい、はい」
爺は、周章《あわ》てて、引込んだが
「十二文で御座ります。御粗末様で」
右源太は、腰の巾着から小銭を出して、ばらばら腰掛けへ落して、編笠を掴むと、小走りに出てしまった。
十五
(悪いこと――そうだ、悪いことにちがいない、然し、止むを得ないことだ。俺を助けるのは、彼奴《かやつ》を斬るより外に道がないのだ――全く、よく似ている。彼奴を斬って、首にし、これなら、誰でも、大作の首にちがいない、というだろう――そして、よし、
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