が叫んで、手を延した。
「曲者だ」
二三人が、警固の船手の方へ走出した。四五人が、刀を取って、草叢へ抛出し、羽織を脱いで袴へ手をかけた。
「ああ」
人々の絶叫が、両岸から起った。
九
人々が、動揺し、絶叫した瞬間――川の中の男は、船中へ跳上っていた。駕側の供が立上った時、駕は、左へ傾いて、越中守が駕へ、しがみつきながら
「何を致す」
と、叫んだ時であった。一人が、刀へ手をかけ、一人が組みつこうと、手を出した時、越中守の首を抱えると、力任せに、脚を船べりへかけ押しながら、己の身体の重みを利用して、越中守を抱いたまま川の中へ、半分傾いていた。
「うぬっ」
一人は、抜討に斬ろうとしたが、男の上になって落ちて行く越中守へ、刀が当るので、はっとした時|水沫《しぶき》を、高く飛ばし、川水に大きい渦巻を起して、二人の姿は、川の中へ没していた。
手早く羽織をとった、一人が、川の中へ飛び込んだ。二三人は、刀を抜いて、左右へ動揺している船中から、川水を、睨みつけた。又一人が、飛込んだ。つづいて、裸の一人が、両手を延して、飛込んだ。川水は、人々に掻乱されて、岸の方へまで、波紋を描いた
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