「何にね、その村から、近道しようと、畦《あぜ》を出てきたら、こらっと、やられて、猫の子みたいに、首筋を掴まれて――何うも、相馬大作も、いろいろたたりをしますわい。しかし、川筋の取締りが、大変で御座りますよ。津軽領には、二百人から出張ってで御座りますな。ずらっと、堤の上に――」
 女狩右源太は、人々の話を聞いていたが
「そうも、恐ろしいかのう」
 と、呟いた。人々は、一斉に、右源太を見て
「ええ、檜山領の百姓には、生神様のように思われて――」
「大砲を何しろ作って」
「見たか、その大砲を」
「いいえ」
「わしは見た。紙じゃ」
「紙? 張りこの?」
「そうじゃ。余り、びくびくすると、張りこが、鉄《かね》に見える。世間が泰平じゃと、話が、面白|可笑《おか》しく尾に鰭をつけていかん。大作など、人気とりの山師にすぎん」
 人々は、黙ってしまった。
「出るな、出るな」
 幾人も、袴をくくり上げて、草鞋履《わらじば》きで通って行った。行列が、近づいてくるのであった。

    八

 人々は、渡し場の、草の中へ、膝と、手とを突いていた。舳《へさき》にも、艫《とも》にも、船頭が、川の方を向いて、両手を
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