。行手に、道が白く延びていて、田畑か、川が、家の屋根が、見えていた。
七
二人の侍が、ずかずかと、茶店の中へ入ってきて
「只今、津軽越中守様が、御通行に相成る。許しのあるまで、ここから出んよう」
茶店の亭主が、膝まで手をおろして
「はいはい」
と、つづけさまに、お叩頭をした。役人は去ってしまった。
「厳しいのう」
一人が、隣りの男へ、小声でいった。
「大砲以来、とても、とても――へっ、昼寝でもしてこまそか」
「然し、相馬大作って、人は、大きい声でいえねえが、えらい人だの。一人で、南部を背負って立って、津軽の睾丸《きんたま》を、縮み上らせているのだから――」
「越中さんも、ここまでくりゃ、然し、一安心だ。川を越えりゃ、自領だからのう」
「へい、へい」
表で、忙がしい返事がして、一人の旅商人が、一人の役人に襟首をつかまれながら、小走りに、押されて茶屋の中へ入ってきた。
「うろうろするな、野良犬めっ」
役人は、商人を突放しておいて、去ってしまった。
「何うもはや――」
商人は、襟を直し、髪を撫でて
「御免なされて、どうも、うかうか歩きもできん」
「何うしましたえ」
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