に、いい機を考えていた。一人が梯子を伝って、屋根へ上った。梯子には、次々に人が伝って登りかけていた。門の所に、微かな音がして、木が軋ると、門内の白い雪が、くっきりと両扉の間に現れて、すぐ、広々とした玄関先が、展開した。人々は、静かに入って行った。一人が、玄関先の雪の中へ、竹に、書類を挟んだものを突立てた。
「お前、ここにおれ」
と、内蔵之助が、寺坂にいった。そして、人々と一緒に門内へ入ると――たあーんと、長屋の戸へ、矢を射立てて、そこにいる人々を、威嚇するのが合図であった。正面の玄関の板戸が、掛矢の一撃で凄じい音の下に折れ砕けた。とん、たーあんと、矢の戸へ立つ音、庭へ走って廻る人々の足音、板戸の裂け、砕け、敷居が外れる音――一時に、そんな物音が起り、人々の働きが始まった。そして、それと同時に、表門が、軋って閉まりかけた。
(これだっ――)
と、吉右衛門は、脣を噛んだ。
(何処まで、俺を辱かしめるのだ? 何処まで、馬鹿にしやがるのか? 下郎には、人間の魂が無いと思ってやがる――誰が、お前等について行くものか。皆、殺されてしまえ。附人に、斬られてしまえ――畜生っ)
吉右衛門は、暫《し
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