うせ、役に立たんから、討入を見届けて、国許へ知らせに参りました、と、こういってもいいし、もし、皆が切腹か、打首にでも成ったなら、しめたものだ。誰が、何をいおうと、俺の口先一つで何んとでもなる。ちゃんと、名の入っている書付が、お上の手にあるんだからな――助命か、切腹か。それを見届けてから国へ走るか? 先に走るか?)
 寺坂は、自分を、同志の中へ加えたくなってきた。
(四十六人、皆無事だ。そうと知ったなら、討入っておくのだった。いいや、討入っていたなら、一緒に、切腹かもしれん――誰も、あの時、俺の逃げるのを見てはいなかったんだ。口実は、何んとでもつく――よし、俺は、仲間へ入ってやろう。入れることにしてやろう。そうでもしなけりゃ、埋合せがつかん。人を、虫けらみたいにしやがって、その虫けらが、一番いい籤《くじ》を引きそうだ)
 吉右衛門は、明るい心になって、微笑していた。

    七

「まあ、吉右衛門――何うしたえ、上るがよい、さ」
 と、玄関へ、出てきた、大石の妻が、嬉しそうにいった。
「未だ、お知らせは?」
「何の?」
「首尾よく、吉良を、お討取りになりまして御座ります、これが、その―
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