なってみると、何うも、五十銭の節約だけではやって行けそうにない。それで
(月謝を払わない事にしたら)
 と考えた。月額四円の節約、これは大きい。
(何うも、あんな先生のあんな講義で、四円五十銭もとるのは、高すぎる)
 島村抱月先生は、何故か休講、坪内先生も二回聞いたきり、相馬御風氏が、文学を講じる外、片上先生、吉江先生も英語を教える時間の方が多い。
(英語なんぞ習いに来たんじゃあねえ、もっと、月々雑誌にかいてるような事を、聞きにきているんだ。それを聞かさないんなら、月謝納めないぞ)
 いろいろと理由をつけてみたが、理由よりも、何よりも納める事が出来ぬ状態になってしまったから
(見つかって学生証見せろと云われりゃ、其時の事だ)
 と、度胸をきめてしまった。
 一二ヶ月は、びくびくしていたが、試験を受ける必要はないし――第一に、もとから、そう勤勉に講義に出てはいないのだから
(一学期分と、四円払っているんだから、それで負けておいていいだろう)
 学校へは、友人と話しに行くだけで、ノートなどは
(ノートをとると、盗講になるから、とらないですよ)
 というような理由をつけて、一冊もとらなかった
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