くなってガンガン呶鳴《どな》った。
「この頭とこの世界とはどうもシックリ合わんもうさらばだ。やれ※[#「鼻+(嗅−口)」、第4水準2−94−73]《かぎ》煙草だの、やれ汚《けが》された祈祷だの、やれなんだのだって」
ブラウンは額に八の字を寄せ、いつもに似合わぬ気短《きみじか》になって鋤の柄をバタバタとはたいた。
「とっととやれ」と彼が叫んだ「何もかも火を見るように明白なんだ。嗅煙草も歯車も何《な》にもかもなんだ。今朝眼をさますと同時に解ったんじゃ、そうしてわしは外へ出て来て作男のゴーとも話したんじゃ。どうして、あの男は阿呆で聾《つんぼ》に見せかけているが、なかなか聾や馬鹿どころではない。ところで諸君あの条項書はあのあの通りでキチンと筋が通っている。わしは破れた。
弥撤《みさ》書についてもカン違いをしていたが、あれはあれで穏かなもんじゃ。しかしこの最後の件ですぞ。墓をあばいて人物の頭を盗みおろうというここに確かに穏かならんもんがあると見た。確かにここにばかりは魔法があるようだ。どうもこればかりは嗅煙草や蝋燭というたようなわけのない話とは筋が違うようじゃ」
こういって彼はコツコツ歩きまわりながら不機嫌そうに煙草をすった。
「皆の衆」とフランボーがわざと勿体らしく云った。「諸君俺に注意するがよい、俺が昔は犯罪家だった事を忘れぬがよい。あの時分は実に面白かった。俺は自分でズンズン話の筋道を組立ててズンズン想いのままに実行したもんだ。その俺だ、こんなのらくらした探偵事件は仏蘭西《フランス》ッ児《こ》の俺に堪え得る事ではない。俺はオギャアといって、この世に生れて以来、善悪ともに片端《かたっぱし》から手ッ取り早くかたづけたものだ。決闘の約束をするにしても翌《あく》る朝は必ずチャンバラやったもんだ」
「勘定書はいつでも即金でガチャガチャと支払ったもんだ。歯医者へ行くんだって約束日を延ばしたりなんかはせん」
と突然師父ブラウンのパイプが口からすり落ちて花崗岩《みかげいし》の廊下の上で三つに割れた。彼は阿呆の様に眼球をクルクル廻転させた。
「オー神よ、何として私は大根だったろう」
こう叫びながら彼は泥酔漢《でいすいかん》が故なく笑う様にワハワハと笑い出した。
「歯医者歯医者」彼はフランボーの言葉を繰返した。「アアわしは六時間も精神的に奈落の底に沈みおった。これと云うのも皆今の
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