名たかは、この二人の間へ生れた子であった。
「不義は御家の御法度《ごはっと》」で、危いと首にかかわるし、第一若い男と奥女中との間、余程取締りの厳重であるべき筈だのに、出来たのだから通仙もいい男にちがいない。従って、たかは父に似たか母に似たかは知れぬがいい女である。
「二人のいい所だけを取るともっといい女だったのに」
と、通仙、藪医だからメンデリズムの法則なんか知らなかったのだろう。子供という者は母に似るか父に似るか、祖父母に似るかで、母のいい所と父のいい所だけをとったり、二人の悪い所だけに似たりして生れるもので無い。母親が小ぢんまりとした細面《ほそおもて》の美人で、父親が眉の太い、大きい鼻だと、きまって親爺に似て出来てくるものである。
たかが十二三の時分から、そろそろ近所で噂が高くなった。
「医者坊主の娘にしておくのは勿体《もったい》ないな。鹿の角細工店でも出して看板娘にすると、よう儲かるで」
と、諸国遊覧客の懐を相手に暮している奈良町人碌な事を云わない。
奈良町奉行の与力、玉井与一右衛門の若党の源八というのが、このたかに惚込んだ。通仙の下男に頼んでは艶書を送る。下男の方では、
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