、皮肉やな」
「とんでも無い。この禿頭《はげあたま》が」
とぴしゃりと亭主自分の頭を叩いて引きさがってしまう。
内所へきて、胴巻に封印をし、印鑑の紙をみていると、
「親方、瀬川ざます」
と、襖の外で声がしたから、
「さあ、御入り」
女房が、煙管《きせる》をはたいて、
「御苦労だね、一つ御頼みしようか。これ、鏡台をもっておいで」
と、昔の女郎、女房の髪まで結ってやったが、今は芸者は半襟をかけても、皺をよせる。
「主人やろな、番頭にしては外の人と話振りもちがうし。中々上方者にしてはよく遊んでいる」
と、亭主、印を見ながら女房に云っていると、髪を梳《す》きながら眺めていた瀬川が、
「まあ、珍らしい印形、妾《わたし》のとよく似ていますが」
「ふん、わしもそう思ってるが、こりゃ町家のと違うらしいな」
「親方|一寸《ちょっと》拝見してもよざますか」
手にとって見ると、夫|久之進《きゅうのしん》の所持していた物と寸分の違いも無い。はやる胸を押隠して、
「一寸拝借させて頂きましても……」
「いいとも」
髪を結上げて、部屋へ戻り、印形を較べてみると全く同である。禿《かむろ》を呼んで、その
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