う流連《いつづけ》も飽いたな」
大抵、流連《いつづけ》というものは二三日もすると飽き飽きする。いくら惚れた妓《おんな》とでも、妓と茶屋とは又別である。
「どや、江の島から鎌倉へでも廻ろうか」
「ええな」
亭主を呼んで、
「金をあずけとくわ、たんとも無いけど」
と、出した胴巻、中々重そうである。一目にみても、小千両あると判るやろ、一寸《ちょっと》持っていても此位と、流連客《いつづけきゃく》ふんぞり返っている。
「道中が恐いよってな」
「何云うてんね、太夫の方が恐いで、胡摩《ごま》の灰《はい》なら金だけや、太夫は尻の毛まで抜きよる、な、歌浦」
「知りんせん、御口の悪い」
「そこで二三十両ここに持ってるが、もし足らなんだら途中からでも使を出すよって渡してんか」
「かしこまりました。では――何分大切な御金の事で御座いますから、飛脚の参りました節に何か証拠が御座いませんと」
「そやそや、印鑑で割符をしとこか」
「ではこの紙へ」
と、亭主の懐中している紙入から抜出す紙一折。
「はい、確かに」
「一つやりんか」
「有難う存じます――御返盃、長居は不粋と申しまして手前はこれで」
「長居は不粋か
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