て」
 もう一人と三人の客の残った一人が、大丈夫とみて背《うしろ》から抱かかえ、
「誰か来いよう」
 と叫んだ。禿《かむろ》と歌浦とが内所へ馳込んだので、五六人も登ってくると、髪を乱して瀬川は身もだえしている。客の一人が、肩を押えながら、倒れて唸っている。
「瀬川」
「親方、離してこの人を、御父さんの敵を討ちます」
「敵討か――敵討なら瀬川、証拠を御役人に見せて」
「いいえ、妾《わたし》は殺されても」
「これ――」
 と、親方、目で源八の方を差すと、
「済みません、御内儀《おかみ》さんも勘弁して、もう大丈夫、離して下さい。さ刀も」
 と坐ってしまった。役人はすぐきた。そして南町奉行中山出雲守の手から、曲淵治左衛門《まがりぶちじざえもん》と広瀬佐之助の二人が群がる人々を分けながら両三人の目明《めあかし》を連れて入ってきた。

     三

 享保七年四月二日の事である。客が三人、松葉屋へ登《あが》った。前々からの馴染とみえて、
「これは、御珍らしい」
 と御主婦《おかみ》が云った。
「又、四五日御邪魔するで」
 と、上方《かみがた》の人らしいが二三日|流連《いつづけ》をしていて、
「も
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