ん」に「虚」、第4水準2−88−74、372−4]を吐くのに余り面白くないものはいけない。それにこの話は可成り狂言作者が手を加えているらしいから、従ってお芝居的な技巧が多すぎもする。興味が或は薄いかも知れぬ。興味の有無は読者にもよる。私はとにかく、書いてみる位の興味はもっている位にしておいて――。
「歌浦さん、一寸《ちょっと》」
 と、禿《かむろ》が呼んだから、妓《おんな》が膝に凭《もた》れていた客が、いやいや柱へ凭れ直した。歌浦が立って行くと、
「嫉《や》けるから」
 と、瀬川が笑っている。
「まあ」
 瀬川が襖を開けると、客は真赤な顔をしながら、浄瑠璃を語っていた。床柱へ凭れて赤い顔をしながら語っている浄瑠璃に余り上手なものは無い。瀬川は打懸《うちかけ》を引きながら入ってきたが、その客の前へきて、すらりと脱捨てると、右手に閃く匕首《あいくち》。
「敵」
 と云って肩日へぐさと突きさすと力を込めて斬下げた。
「あっ」
 と、締められたような声を出して、客が床の間へ倒れたとき、
「父の敵、源八」
 と叫びつつ又振上げた匕首の手を一人の他の客が握って、
「何をする、危い」
「離して、離し
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