事をしながら鉾子尖《きっさき》をカチリと半兵衛の太刀先へ当てながらじりじりと追込んでくる。槍をもたしたならどうなったか知れぬが武右衛門の命がけの働で槍をとる隙がないから半兵衛は歩の悪い太刀打である。喋りながらも寸毫《すこし》の隙なく詰寄せてくる太刀に気は苛立ちながら、押され押されして次第に追込まれる。軒下に焚物の枯松葉が積んであったが其処まで押つけられてしまった。散らかしてある松の小枝に半兵衛の踵がかかる、その「間」、
「エイッ」
心得て一足退る。足をとられて松葉の上へ倒れかかるその一髪の隙、来金道が肩先へ斬込んできた。どっと倒れる所、孫右衛門得たりと斬つけて耳の上と眼の上へ傷《て》を負《おわ》せた。ハラハラとして、その様をみていた市蔵、来金道が打込むとき吾を忘れて走出した。振かぶった木刀、どしりと又右衛門の腰へ入った。綿入二枚に帯までしめていては痛い事も無い。二度目の木刀を又右衛門振かえりざま、
「危いぞッ」
と、払ったが、市蔵は死物狂い、三度目は憎い刀めと伊賀守金道を撲った。又右衛門も後に『不覚であった』と物語っているが、流石に厚重ねの強刀が、鍔元から五寸の所で折れてしまった。
前へ
次へ
全26ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング