傷が可成りに深い。気が立っているから戦はするものの、清左衛門に又傷を受けた。しかし、又右衛門が来て半兵衛が追すくめられているのをみると、小者共はとても戦う勇気などなくなってしまう。半弓をもっていた勘蔵がうろうろしていて武右衛門に尻を斬られて横っとびに逃るし、清左衛門も武右衛門の決死の顔をみると薄気味悪くなって、逃げ出すのを追討ちに肩をやられる。市蔵一人木刀をもって石垣の所で固くなっているのみである。武右衛門は二人を追払うと共にぐったりとなってしまった。鍵屋の前で又五郎と数馬が斬合っているから助太刀しようとして一足踏出と共に倒れてしまった。気を取直して石へ腰をおろしたが刀を杖にしたままどうもできない。
 又右衛門も相手が半兵衛だから自重している。御互に青眼、所謂相青眼の構え。
「どうした事じゃ、其処な御仁《おひと》に申すが敵討か、喧嘩か」
 という声が突当りの崖上からした。孫右衛門の耳にも誰の耳にも入ら無いが、又右衛門は微塵《みじん》も逆上していない。
「敵討、敵討で御座る」
 と、じっと半兵衛を見凝《みつ》めながら答えた。しかし対手が老人で通らない。又しても聞くのに対して又右衛門は又返
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