、遠くから「ヤアヤア」位で迫ってくる。武右衛門も又右衛門に相当の間奉公していて一人前の腕だが三人に一人の腕では無い。まして半兵衛、槍ほど無類の達者では無くとも、刀法も武右衛門よりは上である。
「下郎、参れッ」
 と大上段、つつと小刻に寄ったから武右衛門一足退く、と中段に刀が変るが早いか、
「エヤッ」
 躱《かわ》す隙も無く、肩をざくりとやられてしまった。三助を相手にしていた孫右衛門、相手を捨てておいて、
「己れ」
 と横から斬かかる。
「ヤア」
 と、構えられると流石にすぐは踏込めない。三助、その間に槍の鞘を払うや孫右衛門へ、
「こん畜生ッ」
 と突いてかかった奴を袖摺《そですり》へ一ヵ所受けた。その時又右衛門が走寄《はしりよ》ってきたのである。血に染んだ来金道二尺七寸を片手に、六尺余りの又右衛門が走《かけ》つけたのだから小者は耐《たま》らない。浮足立つ所孫右衛門、
「糞ッ」
 というが早いか、十文字槍をもってへっぴり腰に突いてかかった三助へ斬込んで一太刀肩へ斬込んだ。ばったり倒れたので孫右衛門が暫く呼吸《いき》をついで、半兵衛にかかろうとする。武右衛門は半兵衛を孫右衛門に渡したが肩の
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