の九時から午後の三時まで斬合っていた事になる。正味六時間、これはどうも※[#「※」は「言+虚」、第4水準2−88−74、51−15]《うそ》らしい。又右衛門が甚左衛門を斬ったのは物の十秒とかかっていない、それからすぐ桜井半兵衛にかかって、容易《たやす》く打討《うちと》ったのだから長くて四五十分の事である。一時間とみたとしても残りの五時間を又右衛門が又「熱燗」で、二人の勝負を見物していたとは考えられない、この三刻は甚左衛門が斬られてから、役人の出張、負傷者の手当、野次馬が又右衛門について役所へ行く迄の時間と見るのが正当である。
鍵屋の角を曲った時、桜井半兵衛は又右衛門の懸声を聞いた。とたん、物影から武右衛門が斬つけた。たたみかけて斬込む刀、槍を取る隙が無いから、刀の鞘を払って受留めると共に馬からうしろへひらりと降立った。武右衛門と共に走出た孫右衛門は、槍持ちの三助に斬かかったから、三助驚いて槍を縦横に振廻す。半兵衛と三助御互に渡しも受取りもできない。素破《すわ》っ、と驚いたが流石に半兵衛の供をしてきた若党だけある。清左衛門が抜くと共に市蔵も木刀を抜いた。定まらぬ腰ではあるが、主人大事と
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