手に変化を計られまいとする。二尺余りを距てて睨合っているが、槍の方から仕懸けて行くらしく時々気合と共に穂先が働く。それにつれて刀も動く。と、閃めいた穂先、流星の如く胸へ走る、数馬の備前《びぜん》祐定《すけさだ》二尺五寸五分、払いは払ったが、帷子の裏をかいて胸へしたたか傷けられた。
「此処だぞ」
と、数馬は思った。
「自分は死んでもいい、その代りにはきっと又五郎は討取ってみせる、さあ来い」
又右衛門の仕込んだのは此決心である。身を捨てて敵を討つという必死の決心である、短い気合を二三度かけるが早いか、数馬は又五郎の手元へ飛込もうとした。さっと繰引いて突出す槍、胸へ閃いてくるのをそのままに片手で槍の柄を握るが早いか、半身を延して片手討の大上段、真向から斬込んでしまった。槍は離れて得な武器だが、附込まれて役に立たぬ。放すが早いか飛退って腰へ手がかかる刹那、左手《ゆんで》に槍をすてて片手なぐりに二度目の祐定が打下す。こうなれば受ける隙も無い。咽喉笛へ噛《かじ》りつきたいように憎みを御互にもちながら、又五郎も斬らしておいて抜打に数馬の真額《まっこう》へ斬つける。この抜打は承知の事だから、避けは
前へ
次へ
全26ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング