た。一口に刀を返してというが中々尋常の腕でこの返しが利くものでない、「翻燕《ほんえん》の刀」と称して、真向へ打を入れて、受けんとする刹那、転じて胴へ返すのが本手で、これはいろいろに使うのである。打込んで行く勢を途中で止めるのが練磨の腕前だが敵もさる者、それを見破ってその「間《かん》」に逆撃されると負になる。あくまで真向《まっこう》微塵《みじん》とみせて、ヒラリと返すのだから一流に達した腕でないと出来ない芸当である。初太刀は大抵受けられるが、後の先といってすぐの斬返しにまで備えるのは余程の腕が要る。片脚を落された刹那刀を抜いて次の斬込みに備える隙位は普通の相手なら有る所だが、名代の荒木又右衛門、斬下すと共に返してきたから、隙も何も有ったものでない。二太刀で物の美事にやられてしまった。甚左衛門を倒すと共に、周章《あわ》て立つ小者共に、
「邪魔すなッ」
と大喝したから、思わず逃出す。
「数馬、助太刀はせぬぞッ」
と云い捨てて、二人きりの勝負とし、小者共を追いながら鍵屋の角から桜井半兵衛へかかって行った。
この早業は到底数馬には出来ない。荒木と共に走出したが、又五郎も期していた所である。
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