いうに十文字の槍をもたせ後ろを押える人として叔父の川合甚左衛門、四十三という男盛り、若党与作に素槍を担《かつ》がせ、同じく熊蔵を従えた主従十一人鎖帷子厳重に、馬子人足と共に二十人の一群、一文字の道を上野の城下へ乗入れてくる。
 荒木又右衛門保和、時に三十七、来《らい》伊賀守《いがのかみ》金道《きんみち》、厚重《あつがさね》の一刀、※[#「※」は「金+祖」「祖」のしめすへんは「ネ」」ではなく「示」、第3水準1−93−34、48−5]元《はばきもと》で一寸長さ二尺七寸という強刀、斬られても撲られても、助かりっこのない代物である。虎屋九左衛門の馬は遥かに過ぎ、鍵屋の前を桜井の馬が曲り、押えの甚左衛門が、今万屋の軒先へさしかかった時、
「甚左衛門ッ」
 大音声の終らぬうち大きく一足踏出した又右衛門の来金道、閃くと共に右脚を斬落としてしまった。馬から落ちる隙も刀を抜くひまも無い。タタと刻足《きざみあし》に諸共《もろとも》今打下した刀をひらりと返すが早いか下から斬上げて肩口へ打込んだ。眼にも留らぬ早業である。川合甚左衛門、自慢の同田貫《どうたぬき》へ手をかけたが抜きも得ないで斃《たお》されてしまっ
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