った。「といって、投身《みなげ》したんでもありませんよ。心臓を深く刺されて殺されているんですから」
「しかし君は誰も訪ねて来た者を見なかったと言ったじゃないか?」フランボーが重々しい声でいった。
「坂道を少し歩いてみるかな」と坊さんが言った。
一同が街路の終りまで来た時に師父ブラウンは突然にこういった。「ホウこれはわしがウッカリしておった。巡査に少しきくことがあったに、皆んなは薄褐色の袋を見つけたかしら」
「どうして薄褐色の袋をですか?」とアンガスが訊いた。
「なぜって、それが外の色の袋ならば、問題は新奇蒔直しじゃ。もし薄褐色の袋なら、さようと問題は解決されたのじゃ」
「へエそれは結構な事ですな」とアンガスは腹の底から皮肉に出て、「僕の知ってる限りでは、事件はこれから始まるところだと思いますが」
「師父、どうか我々に皆話して下さい」フランボーは小供のように、妙に真面目になって言った。
一同は知らず知らず、長い坂路を足早に下って行った。ブラウンは先頭に立って、無言ではあるが、テキパキ歩いた。遂に彼はしまりのないような調子で次のように始めた。
「まアしかし、君達はわしの話を退屈に思いは
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