のだろう?
「喰ってしまったのか?」夢魔がアンガスの耳に囁いた。しかししばし、寸断された人間の死体がこれ等すべての首無のぜんまい人形に吸込まれ、砕かれて行く光景を想像して胸がむかついて来た。しかし彼は無理に努力して心の健康を回復した。そしてフランボーに向っていった。
「ねえ君、こうじゃないかな、スミスは雲のように蒸発して血痕だけを床の上に残して行ったんじゃないか。とてもこの世の話とは思われんねエ」
「ここにとるべき唯一の方法がある」とフランボーが云った。「事件がこの世の事であろうがあるまいが僕は外へ出て師父に報告しなくてはならんのだ」

        三

 彼等は降りて行った。例の手桶を持った下男の傍を通りすぎる時、彼は怪しい者は決して通らなかったことを再び誓言した。使丁と栗売の男も彼等が監視を怠らなかったことをキッパリと断言した。しかし、アンガスが第四番目の確証をと思って周囲を見廻したが、その証人はどこにも見えないので、少し心配げに呶鳴った。
「巡査はどこへ行ったんだ?」
「オウこれはわしがお詫びせねばならん」と師父ブラウンがいった。「これはわしが悪るかった。実はさっきわしがある
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