間に、灰色の筋ばった足型が白雪の上に押されてある事が疑うべからざる事実となった。
「しまった!」アンガスが思わず叫んだ、「見えざる人!」
彼は二の句を発することなしに体を転じて階段を駈上った、フランボーも後を追った。が、師父ブラウンはもはや事件の追求に興味を失ったもののように、雪の積った街上に立って、ジッとあたりを見渡した。
フランボーは明らかに、巨大な肩で扉をたたき破りたい気分になっていた。がスコッチ人であるアンガスはより以上の理性をもって、たとえ直覚は薄かろうとも、扉の枠組をあちこちと模索して、やっと隠しボタンを探しあてた。扉がスーッと開いた。
室内の有様は大体において前と変りがなかった。ただ前よりは暗くなっていた。しかしまだそこここに日没の最後の赤光がさし込んでいた。そして首無人形が二つ三つ、あれやこれやの目的で彼等の位置から動かされて薄暗い中にあちこちに立っていた。彼等の衣裳の緑や赤の色はもはやそれを見わけがつかないが、形が朦朧として来ただけ人間の姿に似通って来た。しかし彼等の真ただ中に、ちょうど例の赤インキで書かれた紙片の落ちていたその地点に、インキつぼの中からはね出し
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