しますよ、彼の住居《すまい》はハルムステッドのラックノー館《マンション》です」
「それは偶然ですな」と小男は濃い眉毛を弓形にしながらこういった。「実は私もその角を曲ったところのヒマイラヤ館《マンション》にいるのです、それであなたも一緒にお出で下さるでしょうなア。私は部屋へいってその奇妙な書状を取出して来ましょう。その間にあなたはその探偵を連れて来て下さい」
「それはいい考えです」とアンガスは叮嚀に言った。「さあでは一つ早いところをやりましょうかな」
二人の男は可笑しな即座の慇懃さを以って女の形式的な別れを同じように受けた、そして二人は隼のような豆自動車に飛び乗った。スミスがハンドルをとって、大きな街角を曲った時、アンガスは、巨大な鉄製の首無《くびなし》人形で『決して意地悪をしない料理番』というあの昔噺の文字を書いた羊鍋《ソースパン》を手にした、『スミス式|雇入《やとい》いらず』という大きなポスターを見て嬉しがった。
「あれは私の部屋でも使用しているんです」と小男のスミスが笑いながら話した。「半分は広告のために、または半分は実際の便利のためにですな。正直のところ、懸引きのないところ、私
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