したけど、どうも倦《あ》きっぽい怠け者でしたわ、しかも大変におしゃれでしたの。しかし私その二人に同情はしていましたの、なぜと申しますと、その二人が空っぽな私共の店へコソコソやって来るのも、二人とも少し畸形《かたわ》なので、無遠慮な人が見たら吹出してしまいそうなかっこうなのだからではないかしらんと私思ったものですから。もっともそれは畸形といっても当らないかもしれませんわ。それは奇妙とでもいうんでしょうか。一人の方は驚くほどの小男で、まるで侏儒《しゅじゅ》か、せいぜい博労ぐらいにしか見えない男でした、けれども彼は全く博労《はくろう》とも見えませんでしたわ、円い黒い頭をしてよく手入れの届いている黒いヒゲをはやして鳥の様にピカピカする眼をしてましたわ、その人はいつもポケットの中でお金子《かね》 をガチャガチャさせて、大きい金時計の鎖をつけていましたの、その人は仕様のない怠者ではありましたけど決して馬鹿ではありませんでした。何んの役にも立たないような品物を手にでももたせると、即座に手品でするように不思議な知慧を出しました。マッチ箱を一五くらいならべておいて、煙火《はなび》のように順々に火を吹出させたり、バナナや何んかをきざんで舞踏人形の形にこしらえたりしましたの。その人はアインドール・スミスといいました。私は今でも小さい黒い顔をしてその男が帳場の所へ来て、葉巻を五本立ててカンガルーの跳んでる恰好をこしらえる様子がありありと眼に見えるような気がしますわ。
「それから、もう一人のほうはもっとむっつり屋で人並に近かったのですけど、どういうものか私には侏儒のスミスよりもっと不思議に見えましたわ。その男は非常に長くて細くて、髪の毛は薄いし、鼻はひどい段鼻だしそれに眼といったら気味の悪るいほどひどい籔睨《やぶにらみ》で、ほんとにあんなにひどいのは私見た事も聞いた事もありませんわ、だからその人に睨められると、睨められた方で自分がどこにいるのか見当がつかなくなるようでしたのよ。御本人もそれがひどくつらい様に見えましたの、それで、スミスがどこかで猿のように芸当を始めようとすると、ジェームス・ウェルキン――というのは籔睨の名ですの――はただ酒場にこびりついているか、単調な田舎道をたった一人でやたらに歩きまわるかするばかりでしたの、ともかく、スミスの方だって、自分の小さいことを気にはしておりました
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