れる事の出来る私の前方のわずかな空間は空虚な室《へや》のようにいつも空虚でした。こんな状態で私は誰であるかわからぬ者と話しを交えました。そこで話しは太陽の最初の白い光りに行きあたるまでずっと続きました。そこでさえ私は彼がどんな風に太陽の光線の中へ消えおったかを見る事が出来ませんでした。しかし迷路の口は多くの出入口や割目や裂目で一っぱいでした。それで彼にとっては洞穴の地下の世界に再び立ちかえって消え去る事は困難ではなかったでしょう。私は岩の清浄というよりはもっと幾分熱帯的に見える緑の植物が生えてる、大理石の台地のような大きな山のさびしい踏段《ふみだん》に出て来た事だけがわかりました。私は汚れない青い海を眺めました。そして太陽は底知れぬさびしさと沈黙の上に輝いていました。そこには驚きのささやきを交わす草の葉もなくまた人の影もありませんでした。
「それはおそろしい対話でした、非常に親密なそしてまた非常に別個なまたある意味において大変に取りとめのないものでした。体のない、顔のない、名もないしかし私の名で私をよぶ、この物は、吾々がクラブにおいて二つの安楽椅子にかけていたよりももっと熱情も芝居気《
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