里です」
「ここから、甲府までも、そんなものか?」
「ここからは十七里です」
「十七里か?」
 近藤は、土方に
「急げば、間に合おう。敵に入られてはならぬ。土方、急ごう」
 土方は、侍に
「敵兵の人勢《じんぜい》は?」
「五千とも、七千とも申します」
 土方は、近藤をみて
「菜葉隊がつづかぬから、大砲の打ち方さえ判らない上に鉄砲がこの数では、とても、太刀打できんでないか」
「又、君は、鉄砲の事をいう――急げ、とにかく、急ごう」
 早馬が去ると、一行は、八王子へ急いだ。そして、八王子の有志が、出迎えていた。
「無闇に、進んだとて仕方が無い。後続部隊も来ないのに――それに、四里も差があっては――」
 と、その休息の時に、意見が出たし、第一日が暮れかかってこの雪道の笹子《ささご》峠を越せるもので無かった。それで、八王子へ泊った。酒と、女とが、府中と同じように出てきた。千人同心が、三四百人は、加勢するという話であった。
「勝沼で食止めて、一泡吹かしてから、甲府へ追込む事にしよう。それまでには、加勢も加わろう。今夜にも、菜葉隊は、くるかもしれぬ」
 人々は、酒を飲むと、そういう風に考えた。金千代
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