、エンピール、スベンセル、こいつが恐い。三町位で、どんとくると、やられる」
「三町も遠くて、当るかい」
「当るように出来てる。伏見では、その為、新撰組が、七八百人やられたんだ」
二百八十人の隊は、二月二十七日の朝――霜の白い、新宿大木戸から、甲州街道を進んだ。二門の大砲が、馬の背につんであった。神奈川|菜葉《なっぱ》隊が後からきて、それを撃つのであった。それから、いろいろの種類の鉄砲が、四十挺。
土方は、もっと集める、と云ったが、金も、品物も無かったし。隊長の近藤が、苦い顔をして
「土方、そんな鉄砲など――」
止めてばかりいた。
撒兵隊《さんぺいたい》、伝習隊、会津兵、旗本、新撰組、それからの寄せ集りで、宗家の為よりも、自分の為であった。入隊しないと、何《ど》うして暮して行けるか見当のつかない人が、沢山に加わっていた。
そして、新撰組は、その人々で、会津兵は東北弁ばかり、旗本は流行言葉――という風に、一団ずつになって、睨合っていた。
大木戸辺まで、町の人々が、隊の両側に、前後に、どよめきつつついてきた。大木戸の黒い門をくぐると
「御苦労さま」
「頼みます」
と、町人達が、
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