国許へ――手紙をかきたいが、誰か――話でもいいから、誰か――)
ぼんやりしてくる頭の中で、そんな事を、思いながら
「わしは、卑怯者でないと」
一人が、首を延して、口許へ耳を寄せた。
「国許へ――立派に戦ったと」
その人が、頷いた。
「背の傷は――倒れてから――斬られた」
「全く、あいつは卑怯な――」
と、その人が答えた。
「国許へ、半兵衛は、荒木と太刀打をしたが、立派に戦ったと――」
「しかと申しますぞ。気を落さずに」
「妻にも、半兵衛は、荒木に劣っていなかったと――」
そう云いながら、もう、その人の顔が、だんだんぼんやりとしか見えなくなってきた。
(わしは、立派に戦った。見ていた人が知ってくれよう。一人が荒木、一人が桜井と、後で判ったなら、知っている者は、わしを称めてくれるだろう。御前試合へ出ても、出なくても、心懸けある士は同じだと――妻に一目――家中の者にも詳しく話をしたいが――ここの人は、伝えてくれるかしら――又五郎の助太刀だと思って、悪く云うか?――いいや、志のある人には判るだろう)
そう思っている内に、耳も聞えなくなってきた。
(わしは、もう駄目かも知れん。然し、
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