も、対手とは、段ちがいであった。対手は、真赤な顔をして、脣を噛んで――だが、懸声もできないで、じりじり退りながら、――然し、必死の一撃を入れようと、刀の尖《さき》の上りかけた隙、半兵衛は
「や、やっ」
打込んで、避けさせて、すぐ二の太刀に、肩を斬ると、対手は、よろめいて、三四尺も退った。半兵衛は
(槍だ。槍をとらぬと、太刀討はできない、槍だ。槍をとって――)
甚左の方では、少しも、物音がしなくなってしまった。
(勝負がついたのか、それとも――)
と、思いながら、槍持の方を見ると、もう見物人が、坂の上に、木の後方に、石垣の上に、真黒になっていた。そして、槍持は、一生懸命に、槍を振廻して、半兵衛の方へ渡さうと、対手の隙をねらっていたが、対手は、刀で、槍を叩いたり、避けて、飛込もう[#「もう」は底本では「まう」]とする様子をしたりして、槍持と、半兵衛との間を、妨げていた。半兵衛は
(荒木が、わしの槍を恐れて、わしに槍をとらすなと、命じたのだ)
と、判断した。
「卑怯者っ」
と、後方で声がした。振向くと、肩を切られて、もう、蒼白になって、刀尖《きっさき》が、ややもすると下り勝ちになっ
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