では無いぞ。誰が、汝等如き、卑怯者を、援けるものか)
 と、思った。

    五

 いつ、どこで、敵に逢い、討つか、討たれるか判らない夫の身の上であった。
 仏壇には、いつも、灯が新らしく、そして、陰膳《かげぜん》が美しく――ただ、その中に一つ、気味の悪いのは、薄絹の上の紙の中にある、髪の切ったものであった。
「御家様、内山様が、おみえなされました」
「ま――」
 里恵は、家老の来訪と聞いて、周章てて、客間の用意をさせていると
「いや、かまうな、かまうな」
 と、もう廊下に声がして、内山が、入ってきた。そして
「おお」
 と、笑った。里恵が、両手を突いて、挨拶しかけると
「忙がしい故、そのまま、そのまま」
 と、云って、立ったままで、庭を見乍ら
「よい話を、知らせにきた。実はの」
「はい」
 手を突いたまま、顔を上げると
「城下へ、荒木又右衛門が、数馬同道で、参ったのじゃ」
「ええ?」
 里恵は、顔色をかえた。
「茶店で、或は、宿で、いろいろと、半兵衛の事を聞きただして、すぐ、発足したらしいが、宿の者の話によると、余程、荒木も、半兵衛の槍を、恐れているらしいのじゃ。繰返し、繰返し、
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