いいのか、それは判らなかった。
(河合又五郎の妹の婿故、助太刀に出なくてはならぬ。何故かなら、縁も無い旗本が、あれだけ援助しているのに縁につながる者が、出ぬ筈は無い――尤もらしい言葉だ。然し――又五郎の殺したのは、数馬の弟の源太夫では無いか? 弟の仇を討つ――そういう法は無い筈だ。もし荒木と、数馬とが、その法を無視して、又五郎を討つなら濫《みだ》りに、私闘を行った罪として、処分されなくてはならぬし、この明白な事を知りながら、助太刀に出たわしも、処分されなくてはならぬ。そうした場合、主君に対して、何うして、申訳が立つか?)
美濃国、戸田左門氏鉄の、槍術指南役として、二百石を頂いている半兵衛であった。
旗本と、池田との、大争いとなって、池田公が、急死し、又五郎が、江戸を追われたと、世間へ噂の立った時、家中の人々は
「半兵衛が、助太刀に出るだろうか」
「そりゃ、旗本に対しても、出ずばなるまい。他人の旗本でさえ、あれまでにしたものを、助太刀にも出ずして、むざむざ又五郎を討たれては、武士の一分《いちぶん》が、立たぬではないか?」
と、云った。だが、氏鉄や、その外の、重臣は
「濫りに出るべき
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