ら、フランボーは四人ぐらいの男を一人で引受けられるはずだから。しかし、そのフランボーは一向に引上げて来る様子はない。いや、それよりも怪しい事は、いつまでたってもポウルや警官が姿を見せないことだ。水面には筏《いかだ》さえ、否《いな》棒切れさえも浮んではいなかった。名もない河沼の離れ小島に、彼等はあたかも太平洋上の孤巌《こがん》に取残されたように絶縁されているのだ。
ブラウンがこんなことを考えている間に、劔戟《けんげき》の音がせわしくせまってカチャカチャという急調に早変りを始めた。公爵の両手は空に放たれ、相手の切尖が彼の背面、左右肩胛骨の中間にヌット顔を突出した。彼は子供が横翻筋斗《よことんぼがえり》[#「横翻筋斗」は底本では「模翻筋斗」]をうつのを半分でやめるような恰好に幾度か大きくキリキリ舞をした。劔《つるぎ》は流星のように彼の手からはなれて、遠くの川にもぐり込んだ。そして彼|自身《じみ》は大地をふるわしてドシンと倒れた。その拍子に大きな薔薇の木が押潰され、赤土が煙のように空に舞上った。シシリア人はかくして彼の父の霊に血のしたたる犠牲をささげた。
坊さんはすぐさま死体の側《そば》に
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