を飛出して裏の船着きに出てみた。が、一双しかない橈舟はすでに中流に出ていて、老ポウルが年齢に似合ぬ力を出しながら川上の方へ急がせつつあるのであった。
「私は御前様を御救い申すのです。まだ間に合います!」その眼は気狂《きちが》いのように光っていた。
師父ブラウンは今更どうする事も出来ずに、舟が上流の方へ※[#「あしへん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》き行くのを眺めつつ、ただ老人が早く例の村へ急を告げてくれるようにと祈るばかりだった。
「どうも決闘などとは善うないこっちゃ」と彼はむしゃくしゃした埃色の頭髪を撫でながら云った。「しかし、この決闘は、ただ決闘としても場違いのようじゃ。どうもわしは心からそう感ぜられてならんが、しかしどうにもならん!」
そして彼はゆらめく鏡のように夕日に照映える川波を見つめていると、島の向うの岸からある微かなしかしまぎれもない音が響いて来た――劔々相摩《けんけんあいま》する音だ。彼はうしろを振り向いた。
細長い島の遥かなる岬のような端、薔薇の花壇の向側の芝生の禿げたところに、二人の決闘者は早や劔《けん》を合していた。二人は上衣を脱いで[#「で」は底本
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