、彼はこの「鏡の家」の謎の一端が見破られたように思った。闖入者アーントネリの陰鬱な茶色の眼とアンソニー夫人(英吉利名のアンソニーは伊太利名のアーントネリ)の同じく陰欝な茶色の眼! 突嗟の間にブラウンはもう話の半分が読めたと思った。
「あなたの息子さんが来てじゃ」と彼は手取り早く云った。「そして息子さんが死ななくば公爵さんが死のうと言う瀬戸際じゃ、ポウルさんはどこに居るかな?」
「あの人は裏の船着きにおります」女は力なげに云った。「あの人は‥‥あの人は‥‥今|救《すくい》を求めているのです!」
「アンソニー夫人」とブラウンは真顔になって、「この際、阿呆気《あほげ》な事を云っとられますまい。[#「。」は底本では欠落]わしの連《つれ》は今釣に行って舟がなし、あなたの息子さんの舟は御家来共が番をしている。あるのはあの橈舟ばかりじゃ。ポウルさんはあんなもんでどうしょうというのです?」
「聖母《サンタ》マリア! 私は存じません!」こう答えるなり彼女は気を喪《うしな》ってござ張りの床の上にバタリと卒倒した。
ブラウンは彼女を抱き起して長椅子にねかせて、水瓶の水をそそぎかけて助けを呼んだ。彼は更に家
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