待の張本人は公爵の弟であるらしくその名を口にする時だけは、さすがにカンテラ形な老給仕頭の顎もグッと寸が延び、鸚鵡《おうむ》の嘴《くちばし》のような鼻にもフンといったような皺が走った。そのステフィーン大尉は手のつけられぬやくざ者で、何百何千という兄公爵の金を干した上、兄にせまって賑やかな社交界をすてて、この片田舎に隠遁させたのであった。これが給仕頭の老ポウルのしゃべった全部で、ポウルは明らかに公爵の味方であった。家政婦の方は前者の様にむっつりやでもなく不平家でもないらしい。ブラウンはこう思った。彼女が主人に対する調子にはどこかに酸味をもっているくらいのところだった。
もっともある程度の畏敬を交えていないのでなかったが。フランボーと師父とが側《そば》の鏡の前に二少年を描いた赤いスケッチ画を見ていると、家政婦のアンソニー夫人が何か用事でもあると見えて、滑る様に部屋の中に入って来た。で師父ブラウンはふりむいてみる必要もなく、折柄この家の家族について二三の品評をしていたのを途中からばったりやめてしまった。がフランボーの方は顔を画《え》の中にほとんどうずめておったのでアンソニー夫人が入って来たの
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