に気がつかずに既に大声で次のような事をしゃべっておった。「これはサレーダイン兄弟と見えますな、師父、二人共いかにも無邪気な顔附きをしている、いやこれではどちらが善人でどっちが悪人だかわからないて」とここまで話出した時彼は女が背に来ている事を知ったので後はいいかげんな雑談にまぎらわしながら庭の方へ出て行った。けれどもブラウンだけはなおも一心にその画に見入っていた。するとアンソニー夫人の方でも永いこと一心に師父ブラウンの姿を見ていた。
彼女は大きな悲劇的ともいうべきな茶褐色の眼の持主である。その橄欖《オリーブ》色の顔は変に息苦しそうな驚きに燃え立っていた。この見知らぬ男はどういう素性の男だろうか、そしてまた何んの用があって来たのだろうと考えているように。してまた坊さんの法衣を見、宗派を知って故郷の伊太利《イタリー》で近づきになった懺悔僧のことでも想い出したのか、ただしはブラウンが連れの男よりも物識りらしいと見てとったのか彼女は小声で、その兄弟が揃って悪人だという事をしゃべり出した。「あの御連れ様のおっしゃる事は半分は確かに当たっておりますよ。あなた、あの方はこの兄弟はどちらが善人でどちら
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