振舞がすむと二人の客は庭と図書室とそれから家政婦――女は少なからざる威風を備えた、じみなしかし美貌の持主で陰府の聖母というような感じがした――とに紹介された。この女と給仕頭とだけが公爵が本国から連れて来た一族のうち残ったもので、現在家に居る外《ほか》の召使共はこの家政婦がノーフォーク州で新たに募集したものらしかった。家政婦はアンソニー夫人という英吉利《イギリス》名で通っていたが、話の中に少し伊太利《イタリー》訛がまじるところから、フランボーはアンソニーとは疑《うたがい》もなく元の伊太利《イタリー》名をノーフォーク流に呼んだものに相違ないと思った。ミスター・ポウル、それが給仕頭君の名であるが、これもまた幾分他国訛のまじるのが見える。が、しかし英語には実によく熟達していた、現代の貴族に使われる一粒|撰《えり》の召使達が多くそうであるように。
小綺麗で絶品という感じはしたが、この屋敷には、皎々《こうこう》たる陰気さとでもいうような雰囲気がみなぎっていた。一時間が一日のように永かった。長い、体裁のいい窓のある部屋々々は明るさを一ぱいにはらんではおりながら、それは死のような翳《かげ》がこめてい
前へ
次へ
全45ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング