ボットが、成功したらしいね。」
「あれがね。」
「一尺四方ぐらいで、能率は、このロボットと同じくらいなんだろう。小さい車輪をつけて、合成軽金の支柱を建てると、荷物をつんで、走っても行くし、場所を指定して、距離メーターをかけておくと、一定の角へ行くと、曲りもするらしい。計った距離の所で、右へも、左へも向くんだね。だから、安全で、正確な使をする訳だ。」
「函《はこ》が、独りで歩いて行くのはいいね。」
「近代風景の一つさ。ロボット専用道路など出来て、人間が踏込むと、跳ね飛されたってね。」
「そういう時代になったね。」
「日本でも、電気自動車のタクシーは、大抵、ロボットに成るらしいね。」
「僕は、乗ったよ。五十銭入れると、扉を開けて――不便なのは、知らない所へ行けないだけだが、電気感触器が、出来て以来、絶対衝突の憂はないし――」
「ロボットを政府事業にして、一切の生産は、こいつにやらせるんだね。人間は、だから懐手をしていて、分配だけを受ける。」
「そう成るだろう、それ以外の方法では、失業者がふえるだけだ。」
「所が、君。」一人、が声を低くして、「このロボットは、君、…………………もっているんだってね。」
「そうかい。」
「じゃあ、…………一つ作って、売出すか。」
「君のような失恋家には、いいだろう。ロボットなら、反逆を企てないからね。」
「その代り、銀座でも、連れて歩いたら、何奴《どいつ》のも、皆、流行《はやり》女優の似顔をしていてうんざりするだろう。」
「僕は、美人の新型を作るよ。一方の眼が大きくて、一方が細いとか、前にも、後方《うしろ》にも顔があるとか――」
「とにかく、人間の女なんざあ、どの面も同じで、おもしろくねえってな事で、鼻の三つある奴を連れてさ。」
「ロボットなら、女房も、妬《や》くまい。」
「その代り、女房も、男のロボットを愛するから、いよいよ人類破滅期だね。」
「強制命令で、人工受胎をさせるさ。」
「差しずめ、僕のごときは、模範的××保持者だね。官報で、人選の発表があると、女が、群がってくる。」
「もう、よそう。俊太郎め、地下で、くしゃみしているだろう。」
「しかし、急激に変化するね。社会も、人間も――恐るべき、科学の力だ。」
六
「貴女は、僕よりも、ロボの方を、愛しているように見えますね。」
「犬を愛するように。」
「嫉妬じゃないですが――そんな、馬鹿馬鹿《ばかばか》しい感情はないですが、ロボを愛するという事は、結局、僕に、資格がない、という事を語っていますからね。侮辱の一種だと思いますよ。」
「じゃ、妾《わたし》が、このパイプを愛しても。」
「パイプはちがいますよ。」
「そういえば、そうね。愛する形式と、感情の変った手遊《おもちゃ》が、妾には、一つ増えたわけね。――そういえば――どういったらいいんでしょう。確かに、可愛いいわ。妾の意思がそのままに通じるでしょう。だから、半分は、自分を愛しているようなものね。自分が、両性を具備したような、妙な、感覚と、感情とは、たしかにあるわ。そして――感覚は、刺激的な事ほど、喜ぶでしょう。異状な感覚ほど――妾、あのロボさんの、金属の香が、好きになったの、冷たい、くすぐったい、――」
体臭に近い、獣的な香水の匂が、漂っていた。夫人は、ロボットの胸に描いたのと同じ、草花のデザインを、青と、朱《あか》と、紫とで、化粧した胸に描いていたし、露出した脚には皮膚の上へ、鮮かな塗料で、幾筋もの、線が引かれていた。それは、足を長く見せると同時に、魅惑的な、肉体装飾でもあった。
「それから、人間の力って、知れたものだけど、ロボさんのは無限よ。女性って、だんだん、その力を耐《こら》えて行く内に、男性なんか、つまんなくなってくるわ。でも、いい所も、人間にはあるわね。」
「じゃ[#「じゃ」は底本では「じや」]、僕とは――」
「………………………………。」
「二週間という約束でしたから、僕は――」
「憶えているわ。五時って。」
「それに――」
「五時二十分に来たでしょう。ロボさんなら、五時が、一つ、二つ打った時、ノックするわよ。」
「恋愛にさえ、ロボ助が、勝つようになっては、人類の最後ですね。」
「ええ、生殺与奪は、女性の手へ、戻ってきた訳ね。」
「そうらしいです。」
男は、立上った。そして、扉を開けて、次の部屋へ入った。その右側には、新らしい、レーヨンの色彩的な、日本的パジャマをきたロボットが、微笑《ほほえ》んでいた。男は、じっと、眺めて、
「ロボ助。」と、いった。
「は――」ロボが、答えた。
「奥さん、ロボ助っても、通じますね。」
夫人は、薄絹の下の、彩色した身体を、歩ませながら、
「ロボ、だけは通じます。」
「君は、夫人を、愛しているか。」
「は。」
男は、ロボの顔を凝視していた
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