社殿の燈明《とうみやう》――私《わたし》は其《その》一生を征旅《せいりよ》の中《うち》に送つて、この辺土に墓となつた征西将軍宮《せい/\しやうぐんのみや》の事蹟《じせき》を考へて黯然《あんぜん》とした。
 そして其《その》昔と今のこの祭の雑踏とを比べて考へて見た。
 頭上には星がキラ/\光つた。
 帰りには裏道を通《かよ》つた。露店の尽頭《はづれ》に、石鹸を五個六個並べて、大きな声で、
『買はんか、買はんか、これでも買はんか』
 と怒鳴《どな》つて居《ゐ》る爺《ぢい》さんがあつた。其《そ》の権幕が恐ろしいので、人々は傍《そば》にも寄りつかずにさつさと避けて通《とほ》つた。
『買はんか、買はんか、これでもか、これでも買はんか』
 露店の上の石鹸が皆《みな》跳《おど》り上《あが》つた。

 翌日、暑くならぬ中《うち》にと思つて、朝飯《あさめし》をすますとすぐ、私《わたし》は横手村《よこてむら》に行つた。
『墓地の鍵を預つて居《ゐ》る男がある筈《はず》ですから、其処《そこ》に行つて聞いて御覧なさい』と旅館の主人が教へて呉《く》れた。
 横手村《よこてむら》と謂《い》つても、町とは人家続きにな
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